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論説 :葛尾村の避難指示解除に関連して

◆避難指示解除―被曝地獄とふるさと希求の恐るべき矛盾

福島県葛尾村の全域に出されていた避難指示が、
一部を除いて12日午前0時に解除されました。
原発事故に伴う避難指示の解除は4例目で、
役場とすべての住民が避難した自治体での解除は、
去年9月の楢葉町に続いて2例目です。
避難指示の解除は住民の故郷を返せ、昔のような生活をしたいという悲願を利用し逆手にとって、東電と国・行政の都合を優先するものだと断ぜざるを得ません。避難指示解除と並行して避難している人々に対する支援を打ち切り、帰還支援に切り替える措置を進行させています。
今必要なことは、帰還ではなく『避難を国が保障すること』です。福島県外も含めて避難している人、避難希求の人を国が保護することです。
帰還は住民の命切り捨てにつながり、汚染地から遠のき、内部被曝をしないようにすることこそ、今求められるべき施策です。その理由を上げます。
(1)解除された地区は除染されたと言いますが、周囲に山があると居住地区を「除染」してもすぐ最汚染してしまいます。
それは山の緑が放射能の貯蔵庫になっているため、風が吹き雨が降れば元のような汚染状況に戻ります。
なぜ、山は放射能の貯蔵庫なのか?木々、草々の光合成(炭酸同化作用)によります。空気中の2酸化炭素を吸収し太陽光をエネルギーとして炭水化物を合成します。空気中にわずか0.04%(400ppm)しか含まれていない2酸化炭素を吸収してあの見事な木々、葉っぱ、草草、おいしい果実ができます。どれほどたくさんの2酸化炭素が吸収されたのでしょう?1mℓの2酸化炭素を吸収するためには最低2.5ℓの空気が気孔を通過します。通過させる際に放射性原子・微粒子を取り込みます。初期に大量に放出した放射性物質が山林にはそのまま貯蔵されています。第一原発からは今なお放射性物質が大気中に漏れています。山林は居住地域とともに今なお新たな汚染に見舞われています。山林の汚染は居住区の部分的除染をすぐ飲み込んでしまいます。大変危険です。
(2)政府・福島県が言う「20mSv/年」は外部被曝だけしか勘定していません。チェルノブイリ法式の内部被曝を考慮した基準に換算すると「33.3mSv/年」です(土地汚染が3倍になると被曝線量は5倍になる計算です)1)。日本式の外部被曝だけを勘定した20mSvは内部被曝を考慮するととてつもなく大きな被曝量を住民に強制するものです。日本住民は保護されるのではなく、棄民されているのです。
ちなみに、チェルノブイリ法で居住・生産を禁止されている「5mSv/年」は日本式の「外部被曝だけ」に換算すればの「3mSv/年」です(ここでは実際より低く見せる政府の住民だましの方法:モニタリングポストや計算方法2)については言及しません)。福島内外で、これに相当する汚染域にほゞ100万人が生活します。また、チェルノブイリ周辺国はベラルーシを例にとれば、0.2mSv/年以上の汚染地は住民に「要警戒」と危険をアピールしています。日本は20mSvで安全の大合唱です。日本はチェルノブイリの逆を行きます。
チェルノブイリ法の規準はセシウム137基準で言いますと、事故直後セシウムにより汚染された初期土壌汚染濃度で設定されています。法律が発効した事故後5年目の1991年は全体の測定誤差との関わりで、セシウム137による空間線量の減少分10%程度は無視できるものとされました。
チェルノブイリ法との比較は政治が住民本位であるか、それとも大企業・東電や政府の都合を優先するものであるか、その違いが歴然です。
(3)炉心から放出した放射能量は政府の言うようにチェルノブイリの6分の1ではなく、逆に4.4倍に上ります。広島原爆の4300発分に相当します3)。膨大な量です。チェルノブイリでは7か月後には基本的に放射性物質の拡散は抑えられました(石棺構築)。福島では5年経った今なお、空中に水中に、海水中に放出されっぱなしです。政府・東電は「安上がり」な方法に固執し、明確に誤った炉心処理方針を継続しています。
(4)日本全国で健康被害が統計的に明瞭となっています。福島県下の小児甲状腺がんはすでに172名を数えています。いくつかの科学的分析では明らかに原発事故の放射線が原因です4)。しかし、政府は放射線が原因で疾病が生じたことを公的な記録から一切排除しようとしています。認めれば責任が露わになり、膨大な補償が待ち受けます。これこそ事実と住民主体を放棄した「都合を優先させる」棄民です。
東京は汚染がむしろ増加しており、今や年間数mSvになる汚染が広がります。東京のある病院の外来新規患者数は3.11以来わずか3年で4倍近くなり、貧血関連の患者数は10倍に迫ります3)。難病総数は3.11を期にうなぎのぼりになっています。日本総人口は3.11以来異常な減少を続けます。市民の突然死の増加もこのデータを見れば本当であることがうかがわれます5)。
土壌汚染の1mSv/年以上の地域はほとんど福島県全県を覆い福島県外に及ぶ状況ですが、チェルノブイリの記録ですが、これと同等の汚染地域:ブリャンスク地区の1mSv/年以上の汚染地での子どもにおける呼吸器疾患罹患率は100%を超えた状態が報告されています6)。事故後5年ほどで健康被害が急増しました。
政府は立憲民主主義の原理に反するかたくなな棄民政策をやめ、住民の健康保護を予防医学的な観点からも即刻しなければなりません。避難支援打ち切り・兵糧を絶つような帰還強制などはもってのほかです。
(5)放射能の危険性を知る人は、帰りたい故郷が『避難指示解除』されても「帰るわけにはいかない」と悲しい思いをします。そのような方が「帰るわけにはいかない」と思う故郷では「解除」は故郷に帰りたい人々の「祝賀」となっています。懐かしい「ふるさと」で健康被害が増加し統計的には寿命の短縮が待ち受けましょう。郡山と同程度の汚染地、ルギヌイ地区の寿命短縮のデータを紹介します7)。
この悲しい現実と故郷への思いの矛盾をどう受け止めたら良いか?
(6)日本の法律事項である住民保護年間1mSvをないがしろにして政府は年間20mSvの規準を今後も維持しようとしています。土壌汚染マップも作らず政府は汚染地域を福島県の行政区分内に限定しました。汚染は全国に及んでいますが、特に東日本は強汚染地域です。福島県外への予防医学的健康保護、放射能検診を実施する必要があります。特に子どもの低汚染地域での保養を国が責任とって行うべきです。
(7)チェルノブイリで実証され、福島・日本でも急増している健康被害を少しでも食い止めるためには、東電・政府が都合の良い「基準」でこのままコントロールされているわけにはいかないでしょう。チェルノブイリ法に匹敵する住民保護法制を実施させましょう。
①食料流通基準100Bq/kgは健康を保つためには巨大すぎます(全国的健康被害が雄弁に物語っています)。基準を1Bq/kgに改めさせ、測定網を国に完備させましょう。政府が内部被曝を防止する食生活の指針を責任もって日本市民に提起すべきです。
②日本の放射能公害はチェルノブイリを超え歴史上最悪です。汚染の事実に基づき土壌汚染マップを作成し、必然的に現れる放射能障害を予防医学的観点から防止する施策を要求しましょう。
③住民が命を守る避難の権利を認めさせ、国の責任で避難者の低汚染地域での生活を支援する必要があります。
④農業、漁業生産者は汚染の無い安全な食料を提供することが天命です。この天命が実施できない状況で生産しなければならないほど酷い人権侵害はありません。苛酷な人権侵害を止めさせるよう、東電と国に賠償は流通制限等の諸基準を変えさせ、誠意ある対応をさせなければなりません。西日本の遊休農地を整備して、汚染地の移住希望農民を受け容れる地盤を開いてほしい。農業・漁業支援策を見直し、汚染の高いところでの生産はきっぱりと諦め、日本全体の被曝の拡大再生産を阻止しましょう。
⑤日本全国の市民の食を通じての内部被曝を阻止するためには、言論抑制の実態を含む「風評被害」、「食べて応援」の概念と明確に決別し、離脱しましょう。内実ともに安全な食品により放射能からの最大限防護を日本の何処にいても達成できるようにしましょう。汚染地内外を「ぬちどぅ宝(命を大切にしましょう)」を合言葉に日本市民の放射線被ばく犠牲を最小限度にプロテクトしましょう。
(8)今の政府は、原発再稼働にせよ、住民の被曝防止にせよ、住民を保護する住民本位の立場にはありません。国家の都合、大企業の都合を住民の人格権より上に置いた政策を続けます。住民の人格権を最優先にする政府を作らなければなりません。
それなしには、核兵器廃絶も、沖縄の辺野古巨大米軍基地建設中止も、米軍被害も、平和も、戦争法廃絶も、人権が守られる働きやすい職場も、原発の無い世界も、放射能被曝をさせない住民保護も、全てが達成できません。国家の都合よりも人権を最重視する政府を作りましょう。一人一人が大切にされる社会を作りましょう。

 
放射能公害被災者に人権の光を!
つなごう命の会
矢ヶ崎克馬
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参考文献
1)ウクライナ国家法
①チェルノブイリ原子力発電所事故により放射性物質で汚染された地域の法制度に関するウクライナ国家法(1991年)    
②チェルノブイリ原発事故被災者の状況とその社会的保護に関するウクライナ国法(1991年)    
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/201110cherno.htm

2)矢ヶ崎克馬ら:モニタリングポスト
http://blog.acsir.org/?eid=23

3)渡辺悦司, 遠藤順子、山田耕作:『放射線被曝の争点』(緑風出版)(2016)

4)矢ヶ崎克馬:多発している小児甲状腺がんの男女比について
福島の甲状腺がんの75%は放射線原因→矢ヶ崎克馬名誉教授
http://www.sting-wl.com/yagasakikatsuma21.html
核害対策室くわのニュース 20160223№1105、 20160224№1106

津田敏秀:Tsuda et al. Epidemiology 2015 Oct. 5:Tsuda T, Tokinobu A, Yamamoto E, et al. Thyroid Cancer Detection by Ultrasound Among Residents Ages 18 Years and Younger in Fukushima, Japan: 2011 to 2014. Epidemiology 2015 Oct5
https://www.google.co.jp/#q=Tsuda+et+al.+Epidemiology+2015+Oct.+5

松崎道幸氏:『生活クラブ生協講演150719改配布資料1』p.56~, http://yahoo.jp/box/Uel6Xt

福島第一原発事故後の健康障害
小児甲状腺がんのアウトブレイク
高松勇医師 医療問題研究会 大阪市阿倍野区・小児科医
http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-3763.html
20141107 UPLAN 高松勇「甲状腺がん異常多発と健康被害」
医療問題研究会:甲状腺がん異常多発とこれからの広範な障害の増加を考える、耕文社(2015)

5)矢ヶ崎克馬:進行する健康被害、http://media.wix.com/ugd/0b285e_4bc2977016834ed2bc8856e56e045c75.pdf

6)Alexey V. Yablokov et. al.: Consequences of the Catastrophe for People and Environment, New York Academy of Science (New York), (2009)
アレクセイ・V・ヤブロコフら:チェルノブイリ被害の全貌、岩波出版(2013)(翻訳版)

7)イワン・ゴドレフスキー、オレグ・ナスビット:ウクライナ・ルギヌイ地区の健康状態、チェルノブイリ事故による放射能災害(今中哲二編)技術と人間(1998年)
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