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東電原発事故後11年 放射線防護に歴史的な逆流が!
放射線審議会が巨大規制値を法令に取り込もうとしている

矢ヶ﨑克馬

107号原発事故避難者通信20220222
東電原発事故後11年-放射線防護に歴史的な逆流が

東電原発事故からやがて11年になります。

放射線被曝を巡る問題ではいよいよ本格的な市民の人権切り捨ての施策が進もうとしています。

トリチウム他の汚染水の海洋投棄、強烈な放射能によりめどの立たない「廃炉措置」,炉心は外界に直結し環境は継続的に汚染されていきます。小児甲状腺がんの検査縮小廃止が企てられています。それに加えて被曝防護の法令基準の改悪です。

 

1 放射線基準の法令化―ICRP勧告の取り込み
日本の放射線障害防止の技術的基準は「放射線審議会」により調査審議されています。「国際放射線防護委員会(ICRP)や国際原子力機関(IAEA)等で国際的に合意された放射線防護の考え方を尊重し、放射線障害防止の技術的基準として規制に取り入れて」きました。

この放射線審議会が2月18日に開かれ、国際放射線防護委員会の東電事故を踏まえたICRP2020勧告を日本の法令に取り入れる作業が進んでいるのです。

「東電事故で20mSv/年で規制されたが、健康被害は皆無であった」と言う認識の下にICRP2020(ICRP146)が作成され、その勧告の下に放射線被曝基準の法令が改悪されようとしています。

 

2 東電事故の際何が行われたか

ー法令をないがしろにした棄民施策とICRP勧告

放射線被曝下における人権の観点から,特記すべきは「日本住民」は法令に明記されている線量限度で保護されるべきところを,法令が無視されその20倍の20mSv/年で規制されたことです。
国家が住民に対する約束を破り,国策・核産業の都合の良いやり方で棄民したというべきです。

IAEAが言う「古典的被曝防護」で強制移住される場合の「故郷の喪失」、逆に「高汚染地域での住民の居住・生産活動」などは巨大な問題ですが、その問題の対応施策とは独立に「住民被曝限度は1mSv/年」という約束されている住民保護は,例えばチェルノブイリ法のように1mSv/年以上の地域の住民には「避難の自由」という人権に基づく権利を与え、避難者には生活/健康/財産を守る保護施策を実施するべきでした。
事故に際しての「原子力緊急事態宣言」での対応策については、憲法論議で「緊急事態条項」が云々される時勢ですが、ナチスドイツの例を見るまでもなく,最悪のケースが日本で11年前に住民の基本的人権を奪う施策として実施されたことに注目しなければなりません。
ここで、法令での1mSvは以下の様なものです。

(法令)

  • 実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則、労働安全衛生法、電離放射線障害防止規則(電離則)、等(「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」の規定に基づく線量限度等を定める告示によれば、「周辺監視区域」とは、「管理区域の周辺の区域であって、当該区域(「周辺監視区域」)の外側のいかなる場所においてもその場所における線量が経済産業大臣の定める線量限度を超えるおそれのないものをいう(規則第 1 条)。」

  • その線量限度は(実効線量として)「一年間につき一ミリシーベルト(1mSv)」と定められている(告示第 3 条)。 


  • (周辺監視区域)


  • 周辺監視区域と管理区域 ・周辺監視区域とは、所持している核燃料物質から出てくる放射線による被ばく線量 が、1年間で1mSvを超えるおそれのある区域となります。 法令により核燃料物質使用者は、一般公衆に対して、1年間で1mSvを超える被ばくを させてはならないと規制されています。そのため周辺監視区域は、自らが立ち入りの管理ができる事業所の敷地内に設定 するとともに、柵等によって制限することが求められます。 なお、周辺監視区域に24時間、365日人が滞在し続けた場合の被ばく線量が、1m Svを超えるおそれのあるものの、敷地の関係で区域を広げられない場合には、線源 に対し追加の遮蔽を行う必要があります(原子力規制委員会)。

この20mSvでの規制に付いては国際社会では大きな問題として日本政府に対して提言/勧告が為されています。

(国連)

  • 国連人権理事会:「普遍的定期的審査」

  • ①グローバー勧告(2013/5)等々があります

  • 「日本政府に対して、年間 1mSv 以上のすべての地域に居住する人びとに対する健康管理調査を実施することを求めるとともに、すべての避難者及び地域住民、とりわけ高齢者、子ども、妊婦などの社会的に脆弱な立場にある人が、メンタルヘルスの施設、必要品やサービスを利用できるようにすることに求めている。また、避難区域、及び放射線の被ばく量の限度に関する国家の計画を、最新の科学的な証拠に基づき、リスク対経済効果の立場ではなく、人権を基礎において策定し、年間被ばく線量を 1mSv 以下に低減すること」を勧告しています。

  • 国連総会

  • ① 2018年には、日本政府に対し、オーストリア、ポルトガル、ドイツ、メキシコの4ヶ国から勧告があり、3月の国連本会合で採択されました。いずれも東電福島事故に おける避難者や住民の住居や健康に関する権利を守るよう求めています。特にドイツの勧 告では、年間 1ミリシーベルトの線量限度に戻すことを明記しています。

  • ② 2018年10 月 25 日に提出された有害物質と廃棄物に関する特別報告者バスクト・ トゥンジャク氏による報告では、「許容可能と考えられていた放射線被ばくのレベルを 20 倍に引き上げた日本政府の決定は重大な問題であると述べ、特に、追加放射線による子どもの健康と福祉に対する重大な影響の可能性について強調している」。


  • 子どもの権利委員会

  • ①避難対象区域における放射線への曝露〔の基準〕が、子どもにとってのリスク要因に関する国際的に受け入れられた知見と合致することを再確認すること。

  • ②避難指示区域以外の地域出身の避難者(とくに子ども)に対し、金銭的支援、住居支援、医療支援その他の支援を引き続き提供すること。

  • ③放射線の影響を受けている福島県在住の子どもへの、医療サービスその他のサー ビスの提供を強化すること。

  • ④ 放射線量が年間1ミリシーベルトを超える地域の子どもを対象として、包括的かつ長期的な健康診断を実施すること。

 

「リスク対経済効果の立場ではなく、人権を基礎において策定し、年間被ばく線量を 1mSv 以下に低減すること」は1996年のIAEA会議「チェルノブイリ10年」で宣言された原発産業保護策「永久的に汚染された地域に住民を居住させ続ける」方針を批判するものです。

しかし、これらの勧告ないし提言に対して、日本政府,則ち放射線審議会は一顧だにするところがありませんでした。

 

3 放射線被曝を巡る歴史的動向

―人権を重視する動きと「如何に被曝を受け入れさせるか」のせめぎ合いー

ざっと歴史を見てみましょう。
(1)人権に基づく放射線被曝規制値の歴史
この歴史は新しい科学的知見が現れる度に、厳しい規制を必要とする予防医学的・科学的認識を反映しています。

 

 

 

 

 

 

(2)如何に被曝を受け入れさせるか?

―逆流のICRP歴史―
ICRPの歴史は第2次世界大戦後の反核兵器の世論に押された1955年の原則的立場の表明以外は,一貫した「如何に放射線被曝を合理付けて住民に許容させるか?」の歴史でした。

表2にその歴史を概観します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(1)リスク受忍論、リスク・ベネフィット論、コスト・ベネフィット論を経て,防護三原則に到達するほぼ功利主義哲学深化の20年間。

(2)チェルノブイリ事故後IAEA会議を経てICRP2007勧告に至る被曝設計自体を大逆行させるほぼ20年間。

(3)東電フクシマ事故後、国内法無視で20mSv/年を適用し,「20mSv の規制基準で「健康被害は出なかった」とする虚偽の認識で,ICRP基準を大改悪しようとする10年間。

というIAEA,ICRPの「国際原子力ロビー」の世紀的暗躍:被曝に関する人権の切り捨ての歴史を認識していただきたいものです。

残念ながら、この様な歴史的状況を日本市民に向けて警告を発してくれる原子力ムラの「専門家」は皆無でした。

私たちは犠牲者が出て初めてことの重大さを知る状況が続いています。

2011年以降の死亡者の異常増は矢ヶ﨑克馬「放射線被曝の隠蔽と科学」(緑風出版、2021)等で既に報告しました。

65才以上人口は2011年を挟んでほぼ直線的に増加し、急激な増加はなく、高齢化による突然の死亡率の変化は期待できません。

年齢調整死亡率での2011年以降死亡が増加したと考えられる疾病は,死亡総数(異常増加死亡率:女>男)、悪性腫瘍(女>男)、肝疾患(2017年以降)、気管支炎肺気腫(女>男)、結核(女<男)、高血圧(女>男)、心疾患除高血圧、脳血管疾患(女>男)、老衰(女<男)、喘息等であった。老衰を除いて他の疾患の死亡率は全て男性が高かった。

なお、交通事故(2015年以降)(女<男)も増加が確認され、2011年の不慮の死は、数は男女あまり差がないが、異常増加死亡率は女性が明瞭に高かった。

フクシマ県民健康調査検討委員会の「小児甲状腺がん」の解析は,「なんとかして放射線と関係がないように見せることができるデータ作り」をしていると特徴付けられる(矢ヶ﨑克馬資料:資料請求はyagasaki888@gmail.com まで)。

 

事故後11年、ICRP勧告を法令に取り込むことによるさらなる人権の切り捨てを阻止することが肝要であると思います。憲法改悪との絡みもあって,重要な局面を迎えています。

e-mail: yagasaki888@gmail.com
電話: 080-3187-5551
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