3.11から6年≪命・人権 脅かす 原子力公害≫ ■下■ 琉球新報・連載 2017/03/10
- 2017年3月10日
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琉球新報 2017/03/10 『3.11から6年』
≪命・人権 脅かす 原子力公害≫ ■下■
『反人権の「棄民」体制 法律通りの保護政策を』(矢ヶ崎克馬)
原発事故処理の原子力緊急事態宣言と、背後にある国際原子力ロビーの功利主義的哲学とアベノミクス核産業維持の無謀さを説く。
現在日本は「原子力緊急事態宣言」の下にある。緊急事態宣言の目的は「原子力災害の拡大を防止する」だが、歴代内閣は真反対の施策を強行した。住民と環境を保護する一切の法律が無視された。国と原子力産業の都合の良いままに基準を設定した「反人権」の実施体制である。
「緊急事態宣言」
A、人格権を無視
法律では公衆の被ばく限度は年間1ミリシーベルトである。しかし年間20ミリシーベルトが基準とされた。避難の権利も認めず、「風評被害」「食べて応援」で全国民強制被ばくの体制である。
B、環境保護
法律上の核廃棄物再利用基準100ベクレル/kgを8000ベクレル/kgとされた。この基準で除染土等を公共事業に回せと政府が放射能拡散を強制する。
C、炉心処理
メルトダウンの核燃料封じ込めに対しては全くお手上げである。強烈な放射能が存在することなど初めから分かり切ったことだったが、「安上がり」な手だてを繰り返し、費用を増大させている。いまだに炉心の放射性物質は空中に、水中に、海に、垂れ流されっぱなしで環境を破壊し続ける。「石棺」という言葉さえ禁止状態である。チェルノブイリでは7ヵ月後に石棺で事故原子炉を封じ込めた。
D、汚染の数値操作
①放射能汚染の公式データであるモニタリングポストの表示値は実際の52%しかない(矢ヶ崎ら測定)。
②土壌汚染を反映した吸収線量等は人の行動と無関係に「環境量」として示すべき量である。ところが、人が屋内・屋外滞在時間を仮定した「生活依存量」に変えられ、環境汚染値の60%しか計上しない数値処理が徹底されている。
上述①②の操作により、実際の約30%にしかならない値が汚染を示す公式被ばく線量とされる。さらに、架空の線量である「実効線量」などにより過小評価の数値操作がなされた。
チェルノブイリ周辺国はくまなく初期土壌汚染測定をしたが、日本は土壌の初期汚染マップすら作らず、放射能影響を福島県だけに限定した。
国際原子カロビー
A、国際原子力機関
核支配体制維持の国連重要機関、国際原子力機関(IAEA)はチェルノブイリ事故の時に、周辺国が行った巨大な財政支出を伴う住民の放射能からの保護(チェルノブイリ法)や、放射能に関する「情報統制」と医師や専門家の「権力的統制」に失敗したことを反省している(1996年IAEA会議)。避難させるな、報道を統制せよ、健康被害を認めるな、がそれ以後の事故が起きた場合の処理基準とされた。そのためにIAEAは福島に事務所を開設した。
B、放射線防護委員会
原子力緊急事態宣言の内容に国際的「認可」を与え、全面的棄民の指令を出すのは国際放射線防護委員会(ICRP)である。
ICRPは防護3原則の第1原則に「正当化」をうたう。「活動が、害よりも大きな便益をもたらす」時にその活動が正当化される、という内容である。
「原子力発電は、人を殺しても良い」と正面切って開き直っている。原子力産業は倫理的にも民主主義否定を公認させているまさに「特殊産業」である。
ICRPはチェルノブイリの反省の上に“次に原発事故が起きたらこうしなければならない”という功利主義に基づく事故管理指針を完成させた(07年勧告)。
07年以前は「線量拘束値」(被ばく限度値)は年間1ミリシーベルトの「計画被ばく状況」だけだった。これに07年勧告で、20~100ミリシーベルトの被ばく限度線量を選べる「緊急被ばく状況」(事故などが生じた際の被ばく状況)と「現存被ばく状況」を追加するよう勧告した。事故に際しては大量被ばくを住民に押し付ける「国際基準」を立案したものである。これが原子力緊急事態宣言の基本指針となった。
核産業の崩壊過程
原発事故の影響と根強い反原発運動の全世界的な発展によって核産業の未来が閉ざされてきている。各国の原発依存も減少の一路をたどっている。
米国では1979年のスリーマイル島事故以降、約30年間、新設がなかった。世界のプラントメーカーは半減している。最近、ウラン濃縮工場も倒産した。
東芝は福島第1原発事故の責任主体(2号機、3号機製作)である。事故原因の解明すら途上である状態で、原発推進を止めず無謀な核固執政策で破たんしている。政府は原発メーカー救済のための危険な原発再稼働と原発輸出は止めるべきである。
今必要な対策
1、原子力緊急事態宣言を解除し、法律通りの健康と環境保護を実施させる。移住の権利を認め、生活の場を自主的に選ぶ経済的保障を行う。汚染地住民保護の保養、非汚染食料の給与等を政府の責任で行う。正確な情報を誠実に住民に伝える。
2、住民本位の予防医学的立場で健康診断と適切な治療を保証する。
3、ICRPなどの棄民を原理とする体系から離脱し、放射線被ばくの誠実な科学と最新のデータに基づき、放射線防護対策を根本から見直す。食料汚染基準を事故前の汚染状態=0・1ベクレル/kg以下を基準視点として設定する。
4、これ以上の被ばくを避ける。市民は毎日の食材の汚染による内部被ばくを防ぐ努力をする。
5、一人一人の人格権を保証する誠実な判断から、核兵器と原発を廃止する。原発産業救済のための無謀な原発再稼働と原発輸出を止めさせる。
(琉球大学名誉教授)

