第105号原発事故避難者通信―基本的人権の危機 20211209
皆々様 お元気でいらっしゃいますか?体調を崩されてはおりませんか?
12月8日は侵略戦争としての太平洋戦争開戦の80回目の日でした。人権のない 臣民数百万人、アジアで2000万人以上が非業の死を遂げた無謀の侵略戦争でし た。15年にわたる戦争は日本人の軍人軍属などの戦死230万人、民間人の国 外での死亡30万人、国内での空襲等による死者50万人以上、合計310万人 以上(63年の厚生省発表)の犠牲をもたらしました。アジア・太平洋各国に 2000万人以上の死者をふくむ史上最大の惨害をもたらしました。
現在の日本は「二度と戦争の惨禍を繰り返さない」という悲劇を越えた痛烈な反 省から生じた平和憲法を元にしたものです。
「一人一人が大切にされる社会の実現」が希望・復興の根幹にあります。
東電原発事故の際には避難の自由、食材選択の自由、放射能汚染地内外での生 活権の保障、真実を公示される権利、等々住民の基本的人権は完膚無きまでに 無視されました。
今回の内容は、主権者となったはずの日本市民の基本的人権の憲法改正に伴う 危機です。
(1) 自民党の「憲法改正草案」は平和条項や緊急事態宣言等が盛り込まれてい ることから、その側面の危機が強調されているようですが、「基本的人権」 の巨大な危機が盛り込まれています。
(2)基本的人権は法律で定めたり憲法で与えられたりするものではありません。 人という存在であることそのものに付随する権利です。
江戸時代までの日本には「基本的人権」の概念はありませんでした。
明治憲法下に於いて「権利」の位置づけは、「主権者である天皇陛下が臣民に与えて下さった」もので、従って表現の自由や結社の自由の制限を目的とした法が存在し、「治安維持法」が1925年に作られました(自 民党はこの法律を今なお「基本的人権」の見地から批判する見識を持っていません)。 侵略戦争の敗戦時にポツダム宣言を受け入れ、2度と戦火を交合わせないという痛烈な反省の下に日本国憲法が採択されました。日本国憲法は基本的人権を基礎に成り立っています。
第十一条
国民は、すべての基本的人権の享有(きょうゆう)を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
とされ、さらに、
第九十七条
この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信 託されたものである。
(3) 残念ながら基本的人権の日常的概念は日本では最重要見識として定着されてはいないように思います。それは自民党政治が歴史的に憲法を変えようとし、内容的には人権を認めないことに勤め、国民に「基本的人権」を主権者としての基礎概念として定着させることを阻んできたからです。 安倍元首相の「戦後政治の総決算」という言葉に見られるように、「戦争ができる国家の体制を獲得する」ことを目的として、「憲法改正草案」が形成されましたが、そこでは、国防軍を保持し、平和条項を変質 させようとすると共に、既に治安維持法の再来と言われるような共謀罪、特定秘密保護法、重要土地利用法等々が立法化されるに至っています。
また、緊急事態宣言が謳われています。 同時に戦前の「アカガミ」体制を支えた旧家族制度が「美しい」とされ、人権の保障どころかその抑圧の精神的よりどころとされています。 今の自公政治は「人権があるが故に施行される」施策は皆無と言って良く、全て統治のための施策であり、人権が踏みにじられるところが多大であるのです。
(4) 自民党の憲法改正草案に於いては「基本的人権」は謳ってはいますが、諸条項に基本的人権よりも重視される旧家族制度、国家的しつけ教育、等々が持ち込まれ、基本的人権の定着は阻止されることは明白です。 こともあろうに、上記97条は削除されているのです。
(5)自民党憲法改正草案で、懸念される重要事項を列挙します。
① まず「前文」に、「家族や社会全体が助け合って国家を形成する」と述べ、国家の形成の土台に家族が据えられます。旧家族制度への回帰が仕込まれています。
「良き伝統と我々の国家を末永く子孫に伝えるため、ここに憲法を制定する」、と憲法が主権者の人権を守る約束事では無く、伝統と国家を伝えるためと変質させられています。
② 第1条には「天皇は、日本国の元首であり」と規定します。 現在の統一的解釈(日本の元首について『基本法コンメンタール 憲法(第五版)』)は次のように説明しています。明治憲法4条にいう「元首」は、国家有機体説に由来する概念をもって、唯一絶対にして統治権を総攬する君主を「元首」と定めたのである(明憲1・4・13など)。日本国憲法の天皇が、このような意味での「元首」でないことは、いうまでもない。 自民草案はこのいかめしい「元首」を用いて天皇制をどう持って行こうとしているのか?
③ 第9条の2 に於いては国防軍を規定し、「軍人」をも定義します。
④ 第13条は現行が「全て国民は、個人として尊重される」とされているところの個人を「改正草案」では「人」としています。「個人」では無く家や社会を引きずる「人」なのです。
⑤ (表現の自由)第21条の2に於いては、 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的とした結社をすることは、認められない。
とされています。共謀罪や戦前の治安維持法に通ずる恐ろしい規定が草案には盛り込まれているのです。
⑥ (家族、婚姻等に関する基本法則)第24条 「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される家族は、互いに助け合わなければならない。」 とあり、夫婦別姓、性的マイノリティーなどを真っ向から否定するに通じる表現であり、「生活保護」の生活権概念などを否定する「家族による自助」を謳っているのです。 ⑦(教育に関する権利及び義務等)第26条の3項では
「国は、教育が国の未来を切り開く上で欠くことのできないものであることに鑑み、教育環境の整備に務めなければならない。」とされる。
教育が基本的人権のために行われるものではなく、国の都合のいい「服従する人間」を育てるしつけに変質させられ、国家目的のための教育管理が徹底します。
⑧(政党)(新設)では64条の2として 「・・・その活動の公正の確保及びその健全な発展に務めなければならない」としています。政党活動に権力が絡めるところとなります。
⑨ 第9章 緊急事態 (緊急事態の宣言)第98条があります。内閣への権力集中と国民の基本的人権に関する諸権利の剥奪ができるようになると懸念されます。
⑩憲法改正の手続き規定として、現行では有権者の過半数を規定しているところ、改正草案では「有効投票の過半数」とされています。
⑪第10章 最高法規 には、上記の様に、現行憲法は97条を設けていますが改正草案では項目を削除しています。 (他項目は略)
(6)
自公補完勢力の維新と国民民主党を加えて壊憲の準備が着々と進んでいるとされますが、「国防軍」が持てるようになるかどうか、という平和条項と緊急事態の巨大権力構成だけの問題では無く、日本市民の基本的人権の全面的危機をはらんでいます。
日本市民の人権の基盤そのものの危機が既に宣言されているのです。日本社会が明治憲法下に逆戻りさせられる事態が迫っています。
既に参政権さえ奪われている約半数の有権者が出現しています。 私たちは個々の問題を通じて働きかけることしかできませんが、その働きかけの基本に常に基本的人権を呼び覚まし、活性化させる働きかけが重要です。
主権者らしい、主権者にふさわしい諸力を発揮して初めて主権者は自身を守ることができます。
主権者らしく振る舞うことにしか解決方法はないのです。
日本市民、頑張ろう!
矢ヶ﨑克馬 2021/12/9
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