避難者通信124号―事故12周年/歴史への責任
皆々様
お元気でいらっしゃいますか?
56回 つなごう命の会定例学習会
テーマ:科学と人権に基づく放射線防護体系
科学と人道目線でICRPを批判する
3月18日(土)16:00~約2時間
ご興味のある方は是非ご参加ください。
ZOOM URL パスワード等
ミーティングID: 771 881 3361
パスコード: D8R2Lt
ご参加予定の方は必ず事前に
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◆原発事故体験を語り継ごう
原発事故の教訓―知られざる核戦争体験の総括
この3月11日で東電原発事故12年となります。
汚染された故郷に留まった人も避難した人も、事故により健康、生活、イノチ、社会的つながり等全ての分野にわたって計り知れない苦痛を余儀なくさせられました。
皆々様の郷土を愛しながら身を守ることにご奮闘なされたことに敬意を表し、心からお疲れ様と申し上げます。
政治が住民を守ったか?私は「知られざる核戦争」と称して、政府が如何に住民を保護する義務を放棄したかを語ってきました。 「知られざる核戦争」とは、政府及び原子力ムラが、被曝の被害を如何に小さく見せるか、被曝を如何に許容させるか、現実に高汚染地帯に如何に住み続けさせるか、等の住民に対して行う情報分野の核戦争です。誰でも知っている超巨大破壊の熱核戦争の裏バージョンです。
私たちは「知られざる核戦争」体験者として、住民が与えられた現実的・法的苦痛を率直に記録し、今後の教訓としなければなりません。
岸田政権が大軍拡と共に打ち出した原爆回帰政策は、危険極まりないものです。
12年前の原発事故を、原発を維持して放射線被曝を軽視する国際原子力ロビーの「功利主義」目線だけで、過去のものにしようとしています。
此処でも「知られざる核戦争」は大いに凶暴さを増しています。
知られざる核戦争―①チェルノブイリ法成立までの流れ
福島原発事故は二つの相反する路線のせめぎ合いの中で発生しました。
科学的に正直に被曝の被害を防護に反映させようとする流れと、如何に被曝を市民に受け入れさせるかに務める路線です。
商業的原子力発電は核兵器生産のインフラを維持するために提案され、世界的規模で展開されました。「核不拡散条約」で加盟国に推進を義務づけさせています。
此処に「知られざる核戦争」を仕掛け無ければならない大きな理由が国際原子力ロビーにはあるのです。
国際原子力ロビーとは、国際原子力機関(IAEA)、国際放射線防護委員会(ICRP)、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)等の組織を中心としている核推進組織集団です。
ICRPは発足以来、放射線被曝を如何に民衆に受け入れさせるかという哲学(功利主義)を深めてきましたが、反面、反核の声に押されて取り締まり基準線量を下げて行く側面もありました。1985年には一般市民に対しては「年間1mSv」の基準を提起し、福島原発事故までの世界基準となりました。3.11でこれも実質的に破られようとしています。
1986年にチェルノブイリ原発事故が発生し、5年後にはチェルノブイリ法ができました。チェルノブイリ法は市民の「憲法で保障された基本的人権を保障する」として放射線被曝からの防護を謳っています。
知られざる核戦争―②原発維持勢力の巻き返し
それに対しIAEAは1996年に「原発事故10年」会議を開き、「被曝を軽減してきた古典的放射線防護は複雑な社会的問題を解決するためには不十分である。永久的に汚染された地域に住民が住み続けることを前提に、心理学的な状況にも責任を持つ、新しい枠組みを作り上げねばならない」という方針を打ち出しました。この方針の具体的基準化がICRP2007勧告によりなされたのです。
この様な国際原子力ロビーの「住民の被曝軽減をもはや基準としない」方針に則り、国内法として普及されてきた「年間1mSv」の適用を、福島原発事故の際に政府は放棄したのです。
しかし政府とマスコミにより、国際原子力ロビーの路線が圧倒的に宣伝されたのです。(①「笑っていれば放射線は来ません」(山下俊一) ②「アンダーコントロール」「健康被害は一切ありません (安倍元首相)」) ③「100Bq/kg以下は安全です」(食品安全委員会 )、 「食べて応援」 (国・福島県・民間) 「風評被害払拭リスクコミュニケーション」(国) 放射線副読本(文科省)放射線のホント(復興庁)
矢ヶ﨑克馬は3.11を「放射線防護に関する法律体系が瓦解した時」と位置づけています。
事実を見極めるために次の疑問を発します。
(1)メルトダウンの原因は究明されたのでしょうか?――地震による細管破断が有力原因
(2)廃炉はどこまで進んだのでしょうか?――未だ1グラムのデブリも取り出せていない
(3)環境はどのように守られたのでしょうか?――汚染させっぱなし
(4)健康被害は無かったのでしょうか?――トンデモナイ 9年間で63万人の死亡者の異 常増加
(5)この12年間住民はどのように保護されたのでしょうか?
事実は?
(1) 残念ながら、メルトダウンの究明は頓挫したままです。1号炉では炉心冷却水モニター用の細管が破断して、地震後数分で冷却水自然循環が止まったという情報が有りながら、メルトダウンは津波による電源喪失だとされたままです。地震大国日本で岸田内閣は原発再稼働の拡大、運転を許可する年数を60年を超えて運用しようとし、さらに新たな原発開発さえも目論んでいるのです。
(2) 廃炉作業は進んでいません。炉底に溜まったデブリを12年経っても1グラムも運び出すことができていません。デブリの総量は、600~1,100トンと推定されます。デブリを洗う地下水と冷却水は環境に流れ、海を汚染し続けています。チェルノブイリでは「石棺」と呼ばれるコンクリートの覆いが施され、外界と遮断されています。 日本行政の何という視点のずれでしょう! デブリを洗う地下水を遮断するとして東電は「凍土壁」を設置しましたが、今も地下水は炉心を洗っています。経済的「安価」であることを基準に選択したようですが、きちんとしたコンクリート工事により完璧に遮断すべきでした。汚染水の一部は1日平均150トン(2021年)の「汚染水」タンクに回収されます。 事故後11年余りで汚染水は130万トン溜まり、昨年政府はこれを海洋放出で処分すると決定、東電はそのための施設を建設中です。 日本政府と東電が如何に環境汚染と市民への被曝に対して無責任な対応をしており、世界の人々に本当に恥ずかしいと思います。
(3) 海洋投棄は住民へ誓約した「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない(政府・東電)」(2015/1)に反します 東電原発事故後6年以降の海産物の汚染に関する新聞報道などを拾ってみます。
① 2017年7月13日 クロダイ(30Bq/kg) 過去最高のストロンチウム90 福島沖 :(東電魚介類の核種分析結果)
② 2019年2月31日 コモンカスベ(161Bq/kg):(毎日新聞)
③ 2019年9月11日 クロソイ:セシウム(101.7Bq/kg)、
過去最高のストロンチウム90 (54 Bq/kg):(東電魚介類の核種 分析結果)
④ 2021年2月22日 クロソイ(500 Bq/kg):(時事通信)過去最高
⑤ 2022年1月27日 クロソイ (1400Bq/kg) 相馬市磯部沖(毎日新聞) 過去最高
⑥ 2023年2月7日 福島放送局 いわき市沖合 スズキ 85.5Bq/kg
特徴的なことは、年を追う毎に発見される汚染値が増大していることです。
このほか、2021年7月 福島県浪江町 蜂蜜 130~160Bq/kg (読売 2021年7月23日)、きのこ出荷制限採取自粛(山梨県HP 2020年8月7日)、陸の食品も汚染が継続します。 放射性物質の有機化、食物連鎖等で海産物の汚染が進んでいるのです。これに新たなトリチウム他の汚染が追い打ちを掛けます。海洋投棄には国際的にも強い反対意見があります。
(4) ①健康被害は無かったか?
3.11の報道を見ていると犠牲者は地震と津波に限られ、原発による犠牲者は「ゼロ」(麻生太郎2023年2月)という状況のマスコミです。果たしてそうでしょうか? 厚労省人口動態調査のデータを分析する(小柴信子氏、矢ヶ﨑克馬)とトンデモナイ状況が浮かび上がりました。 放射能汚染現場で、放射線被曝しても元気溌剌活動できる人が沢山いる反面、「ICRP」のリスクに勘定されていない死亡者が大量に出ているのです。 男女別年齢別死亡率では20才~59才までの体力旺盛な青年/壮年層では死亡率が2011年以降下がり、以前と比較して長寿化 (ホルミシス効果か) した人口が9年間(2011~2019)で57万人もいます(全国統計)。反面、0才~19才の子ども及び60才以上の老齢者は同期間に63万人も過剰に死亡しているのです。合わせると7万人の死亡者増加にみえますが、実情はたいへんなものです。
これはチェルノブイリでは報告されていない深刻な事態です。チェルノブイリ法で居住を禁止された地域汚染状態に日本では百数十万人が生産活動を続ける状態でしたので、全国規模で深刻な内部被曝による犠牲者が多数出たのです。 ②小児甲状腺がんは福島県民健康調査検討委員会の調査分析で、「多数の患者が出たが、原発事故とは関係ありません」という結論が出されていますが、これはデータの誤まった (または故意の) 処理や統計処理の結果であって、科学的には(事実は)明確に放射線被曝に依存しています。多くの科学者が検証しています。
(5) 住民は保護されたか? 日本には市民に対しては「年間1mSv」という法的基準があります。日本国内では3.11まではこれが当たり前に適用されていました。なお、国際条約「原子力の安全に関する条約」でも明確に同じ国内法を住民に対する規制「年間1mSv」の根拠として示しています。日本政府は基準改悪の方向で調整に進んでいます。
チェルノブイリ法では「年間1mSv」を住民保護の基準値として位置づけ、強制避難者も自主避難者も全く対等に国の保護を適用しています。日本では例え強制避難が20mSvで有っても、市民を保護する法的義務基準は1mSv以上で有るはずです。
日本では市民保護の基準から法律は除外されてしまったのです。
同時に、制令で規制されていた防護基準が遵守されなかったあるいは改悪された事例(放射性物質汚染廃棄物、緊急スクリーニング基準)が申告です。緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)のデータは開示されなかったし、安定ヨウ素剤の配布も回避されました。
まさに「放射線防護に関する法律体系が瓦解した」のです。
このような法律の軽視を2度と生じさせてはならないと思います。
日本では「閣議決定」という手段が、大切な憲法事項と位置づけられて平和基準を次々と変えていくことがまかり通っています。さながらクーデターの様相です。
このような事態は既に3,11で経験しており、日本市民(主権者)は特に留意しなければならないと思います。
福島原発事故を「隠された核戦争」の戦場であったと認め、日本の大軍拡と原子力発電回帰は同根であり、ともに進めてはならないことであると、共通認識を持ちましょう。
(つなごう命の会 矢ヶ﨑克馬 2023年3月11日)

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