避難者通信78号、2020年3月5日 福島原発事故の実相③ 国際原子力ロビーの<放射線「防護」から「防護せず」へ核戦略転換>
皆々様お元気ですか?
福島原発事故9周年になろうとしています。
セシウム137の放射線強度が10分の1になるには100年掛かります。
事故後9年はたった9年しか経っていないのです。
「オリンピックどこじゃねえ」。
今回はチェルノブイリの原発大事故と福島原発大事故の放射線被曝に関わる
相違について述べます。
PDF文書→福島原発事故の実相③国際原子力ロビーの<放射線「防護」から「防護せず」へ核戦略転換>
1. 国際原子力ロビーの市民の被曝防護の放棄
(1) 年間1mSvの事実上の放棄
チェルノブイリ原発の大事故の後、周辺3国はチェルノブイリ法1)により住民の被ばく防護を国家責任として行った。この防護は莫大な予算を食い、国家財政と原発維持をも危機に立たせた。
国際原子力ロビーが原発維持のために今までの原発推進とこれに批判的な世論の間の妥協の産物として得ていた住民防護(規制値:公衆には年間1mSv)をかなぐり捨てて、防護を放棄した。
ここで年間1mSvの放射線量をセシウム137について、体重60kgの体重の人の場合を計算すると、毎秒1万本のベータ線と、1万本のガンマ線、計2万本の放射線に被曝することが1年間継続するものである。
セシウム137がベータ崩壊してバリウム137に変化し、バリウムがガンマ線を放出する(両放射線は放射平衡を形成し同数の放射線が放出し続ける。
20mSvに比すれば1mSvは軽いと思われるかもしれないが、放射線量は多大である。健康防護が達成できる基準ではなく、原発の経常的維持を目的とした値である。
(2) 国際原子力ロビー
国際原子力ロビーとは下記の互いに連携する3機関の総称である。
国連の機関であり5核保有国の核保有体制の維持・推進と原発推進の大元締めである①原子力委員会:IAEA、核推進の国々と原子力産業の資金で運営されている②国際放射線防護委員会:ICRP、および③原子放射線の影響に関する国連科学委員会:UNSCEARである。
これらの組織はその名目とするところ(住民の放射線被曝からの保護)と利益相反の関係にある核推進の任務を帯びた者により業務が展開される。キース・ベーヴァーストックは「猟場管理人と密猟者が同一人物である」2)と喝破している。
IAEAの1996年会議3)及びICRP2007年勧告4)により、原発事故の際高汚染地帯に住民を住み続けさせる方針が確定した。
2. IAEAの1996年会議「チェルノブイリ10年」3)
IAEAの1996年会議「チェルノブイリ10年」3)では、 「住民は毎日の放射線リスクを受け入れる用意がある」とされ、 「被曝を軽減してきた古典的放射線防護は複雑な社会的問題を解決するためには 不十分である。住民が永久的に汚染された地域に住み続けることを前提に、心理学的な 状況にも責任を持つ、新しい枠組みを作り上げねばならない」とされた。
被曝量軽減を趣旨としてきた「放射線防護体制」が事実上放棄され「高汚染地域に住 み続けさせる」という被曝を強制する体制への変換が宣言されたのである。
ここでチェルノブイリのような次の大事故が生じた場合の新方針が打ち出されたの である。 その内容は、住民保護の観点から施行されたチェルノブイリ法に基づく「避難・移住」 を否定し、「被曝防護せず(永久的に汚染された地域に住み続けさせる)」としたことと、 情報統制と専門家・医師らの統制が必要としたことだった。
IAEAが福島に出張事務所を設け、福島県等と提携協力したことの意味はここにある。
3. ICRP2007年勧告4) (1)1mSvから100mSvへ
さらに11年が経過し、2007年の国際放射線防護委員会ICRPの勧告でこの 「防護」から「防護せず」への逆転方針が具体化された。 被曝状況という概念が拡大され、今までの「計画被曝状況」に「緊急被曝状況」と「現存被曝状況」が追加された。今まで防護基準が年間1mSvだったものが、最高100mSvまで被曝させっぱなしにすることができる基準ができたのだ。
それは「住民を保護する立場」ではなく国際原子力ロビーの原発存続政策の都合から見た棄民策適用である。「事故はつきものだから住民は被曝を受け入れよ」という原発産業の開き直りである(添付ファイルでは図1として被曝状況の変化内容を示す)。
その直後に東電福島事故が生じた。悲しいかな、IAEA、ICRPに具体化された国際原子力ロビーの通りの方針が日本の事故に適用された。
それに日本政府独特の住民「愚民視」と虚偽による「住民の洗脳」が加わる過酷な政治である「知られざる核戦争:日本ファシズム版」が展開した。 知られざる核戦争とは矢ヶ﨑克馬が命名した「核推進勢力が原爆投下以来一貫して行ってきた放射能被害の隠蔽のための情報操作」である。
(2)高線量受忍のさらなる仕掛けー線量限度から線量レベルへ
ICRPは、従来の計画被曝においての「線量限度」をしきい値の概念を適用して表記してきた。しかしICRPは用語を使い分けて、防緊急被曝状況と現存被ばく状況には「線量レベル」という表記をしている。
防護基準としての線量限度はしきい値概念を適用しているが、しきい値とはその事象の生じ始めてから終結するまでの過渡的線量区域で、最初の3%が生じる線量値で定義する。
線量レベルは個人個人が受ける線量の強度分布において単なる基準視点を与える線量である。例えば居住制限などの目標になる線量は線量レベルと表現され、その線量レベル以上の汚染領域に住民がいくらいてもかまわない。やがて将来において地域の線量が軽減されその目標値(線量レベル)以下の領域に住民の大多数が居住できるようにする目標値である。その目標線量に至るまでどれだけ時間がかかろうが、それはその国で決めよ、というものである(添付ファイルでは図2と図3参照)。
このように吸収線量の名前も新しい「線量レベル」という名称を使い、線量の取り扱いさえ「線量限度」とは全く異なる適用概念にした。
計画被曝の線量概念はしきい値の定義に従うものであり、(図2:添付ファイル参照)約%の事象成立の線量値を定義するものであったが、新しい緊急被曝状況などに適用される「線量レベル」は住民に大量被曝受忍させる事を目的にしたもので、大量被曝を受け入れるために線量概念を新たにしたものである。
参考レベルは個人線量分布の上の視点となる線量であり、被曝防護の考えに従うものではなくなっている4)。
4 学問の自由を放棄した専門家集団(原子力村) 学問の自由が憲法に規定されている(日本国憲法第23条:学問の自由は、これを保障する)。しかし個々の研究者・専門家が民主主義の上でのその重要性を理解し、それを守り実践する気骨がなければ絵にかいた餅である。 三権分立も同様である。
原子力・放射線防護の分野の専門家は100%ICRP遵守者であり、典型的に国家権力と企業等の経済権力の支配下である(1~2の例外はある)。 ICRPの2007勧告に際してその内容が法律で守られている人権との関わりでその矛盾を指摘してくれる専門家は皆無だった。 原水禁世界大会実行委員会運営委員会代表の野口邦和氏に代表される数多くの専門家は積極的にICRP20007勧告の受け入れを説いた。 放射線被ばく防護分野の専門家の中で、人道にたち、学問の自由に則って行動した唯一の人物が居た:原発事故後に内閣参与に任命された小佐古敏荘氏が原子力緊急自他宣言により20mSvが子供にも適用されることについて「容認すれば私の学者生命は終わり。法律を軽視してその場限りの対応を行い、事態収束を遅らせている」として辞任したことだ。 事故後の放射線防護の世界は、山下俊一氏に代表される住民だましと権力/核企業に対する忖度の一本槍しか持たない専門家集団の独壇場となった。 山下氏曰く「放射能の影響は、実はニコニコ笑ってる人には来ません。 クヨクヨしてる人に来ます」。この人物は「医学博士」は肩書だけにとどまり、誠実な医師としての人間性を示す「人間としての実態」は見つけられない。
この専門家集団の実情は、日本の市民の被ばく被害を防護する力とはならず、逆に「食べて応援」等の被ばくを強制するキャンペーンの主力となりました。
次回は, 日本ではどのように放射能被ばくに対処したか? をお話しします。
参考文献
1)①The Law of Belorussian SSR - "On Social Protection of Citizens Affected by the Catastrophe at the Chernobyl NPP" from the 12th of February 1991,
②The Law of the Ukrainian SSR - "On Status and Social Protection of Citizens Affected by the Accident at the Chernobyl NPP", and The Law of Russian Federation - "On Social Protection of Citizens Affected by Radiation in Consequence of the Accident at the Chernobyl NPP" from the 15th of May 1991,
③The Russian federal Law -"On Social Protection of Citizens Who Suffered in Consequence of the Chernobyl Catastrophe" adopted on the 12th of May
2) キース・ベーヴァーストック:福島原発事故に関する「UNSCEAR 2013 年報告書」 に対する批判的検証、岩波科学 84 1175、20143) ONE DECADE AFTER CHERNOBYL: Summing Up the Consequences of the Accident,Proceedings of an International Conference, Vienna, 8-12 April 1996, IAEA STI/PUB/1001.
4) 国際放射線防護委員会の2007年勧告 日本アイソトープ協会 http://www.icrp.org/docs/P103_Japanese.pdf
5) 労働安全衛生法、電離放射線障害防止規則(電離則)、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則、等
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