避難者通信84号、2020年6月3日「原子力緊急事態宣言の裏舞台 ―法的基準・手順の無視、住民保護の放棄―」
ハイサイぐすーよ、ちゅう うがなびら(沖縄方言:やあ!皆様こんにちは)
コロナ禍の中、無事お過ごしでしょうか?
「つなごう命の会」は、今回の新型コロナ蔓延に関する緊急事態宣言を「命と暮らしを守る」民主的な施策に徹底させなければならないと考え、緊急声明などを発して参りました。
① コロナの蔓延を防止するには科学的に必然的な施策に限定すること。
② 自由を制限する「要請」には必ず補償を行うこと。自由の制限とそれに伴う経済活動の制限などを、住民第一で対処し、住民の命も暮らしもきちんと補償すること。
③ 「命と暮らしを守る」ために市民が自ら協力できるよう政府は誠意を持って謙虚に望むこと(自粛を求めるだけではいけません、政府の義務を実行すること)。
④ 今まで、日本住民の優れた自粛協力で、コロナの蔓延を防いできました。
⑤ これと並行してPCRなどの検査態勢と陽性者の隔離と治療体制の抜本的確立を政府の主導で行う必要があります。しかし政府の意図的(?)怠慢で実施できていません。
⑥ これを行わないと繰り返し感染拡大を避けることは困難と思います。 緊急事態宣言を出した政府の責任はここにあります。
⑦ 日本住民の優れた社会的目的のための協力能力を、決して「戦争が出来る美しい国」の為に利用させることがあってはなりません。
⑧ 主権者が自ら主権を守ることが出来る日本を確保致しましょう。
福島原発事故では放射線被曝から住民を守ることが放棄され、世界史的な大棄民が行われました。10年目を迎えるに当たって、これも主権者として総括する必要があります。 今回は原子力緊急事態宣言が出された下で、とんでもない事態が進行していたことを改めてご報告いたします。
特に法定された行政的手順無視についてです。
原子力緊急事態宣言の裏舞台
―法的基準・手順の無視、住民保護の放棄、―
(法定避難訓練) 原発周辺での事故に備えて避難訓練が2008年までは毎年行われていた。国、東電、福島、地元関連市町村を含む法令に定められている緊急事態を想定したものであった。
(民主党政権で避難訓練実施せず) ところが2009年に民主党政権に代わり、2009年と2010年の避難訓練は実施されなかった。
2011年3月11日に東日本大震災が発生し、東電福島第一発電所がメルトダウンする大事故が 発生した。
(緊急事態宣言) 15時頃原子力緊急事態案が官邸に届いた。19:03分に菅首相(当時)は緊急事態宣言を発出した。
枝野官房長官(当時)が19:45分に記者会見して日本住民は初めて事態を知った。5時間近くの遅れがあった。
(ほとんど法定事項無視) 以下、ほとんどの手順が「避難訓練」で確認されているステップを踏まずに実施された。
(原子力災害合同対策協議会招集せず)
緊急事態宣言が出たときには「原子力災害防止特措法」では原子力災害対策本部(16条)、原子力災害現地対策本部(17条)、原子力災害合同対策協議会(23条)を置くことになっているが、3番目の原子力災害合同対策協議会は設置されなかった。あるいは地元市町村を除外して違法な形で行われた。
特措法23条の規定は次のようになっている:
(原子力災害合同対策協議会)
第二十三条 原子力緊急事態宣言があったときは、原子力災害現地対策本部並びに当該原子力緊急事態宣言に係る緊急事態応急対策実施区域を管轄する都道府県及び市町村の都道府県災害対策本部及び市町村災害対策本部は、当該原子力緊急事態に関する情報を交換し、それぞれが実施する緊急事態応急対策について相互に協力するため、原子力災害合同対策協議会を組織するものとする。
(地元関連市町村は防護・対策協議から一切阻害される)
これが設置されなかったためあるいはそれ以外の規定にある「情報の共有」がなされなかったために、地元関係市町村は蚊帳の外(根本的な情報外)に置かれた。
(情報の発信)
本来「原子力災害現地対策本部」から発信されるべき情報が枝野官房長官から
(対策はすべて国と東電と福島県のご都合で!)
最も厳しい被害を受ける地域の代表を排除して行われた棄民は次のようなものである。
① 被曝制限を年間1mSvから20mSvへの変更
② SPEEDI情報を公開せず(福島県が拒否)
③ 安定ヨウ素剤を配布せず(福島県が拒否)
④ 広報は現地対策本部の報道担当者が行うべきところ枝野官房長官が行う。
⑤ EPZ(Emergency Planning Zone)として定められている緊急時避難ゾーンは8~10kmであるにもかかわらず菅首相は2.5時間も遅れて3kmを避難区域とした
⑥ 福島県災害対策本部長の佐藤雄平知事は県内59市町村に緊急事態宣言の通知をせず、災害対策会議を招集せず。
⑦ 政府現地対策本部長が会議を経て住民避難、屋内退避措置などを決定すべきところ、官邸だけで決めて混乱と犠牲を増幅。
⑧ 福島県はスクリーニング基準を4万cpmと設定されているところ、勝手に10万cpmに変更。
⑨ メルトダウンという事態を2ヶ月も経過してやっと日本住民に伝えるという情報操作が欲しいままに行われた。
⑩ 野田首相(2011年9月2日~2012年1月13日)は現実を確かめず、会議など経ず、突然2011年12月16日に「事故収束宣言」を発した。
本来の行政的手順を踏まずに行われた「原子力緊急事態宣言」は ①義務づけられた避難訓練の実施を行わなかった、 ②法定されていた会議を正規に開かなかったなど、法律を遵守しなかったが故にすさまじい棄民策となりえたのだ。 矢ヶ﨑が唱えている「知られざる核戦争」の現実がここに示される。知られざる核戦争とは、核推進(核兵器による抑止論と原発推進)権力による「放射線被害を市民に認識させない情報操作」であり、「科学」を含む被曝に関する情報操作をさして言う。
正規の行政的手順を踏まなかったことは政府のうろたえと直結しており、国際原子力ロビーの言うがままの「施策」を取らざるを得なかったことを裏付ける。
原子力緊急事態宣言の惨憺たる「民主主義への裏切り」は悪夢であるが、歴史上に残る悪例として明確に位置づけ、教訓とすべきである。
―井戸川裁判のご支援を!ー
なお、行政的手順が無視されて3.11避難等が混乱し犠牲を大きくした様は
井戸川克隆元双葉町長の
「福島被ばく損害賠償請求事件」の陳述書(1)(受けた損害総論(1))を見れば明快である。
http://idogawasupport.sub.jp/report.html (井戸川裁判を支える会)
の「裁判資料」の中の 第16回口頭弁論として掲載される「陳述書(1)」に示される。 氏の論考はさらに続く。
井戸川裁判のご支援をお願いすると共に、井戸川氏の歴史的に非常に重要な論述に注目されたい!
矢ヶ﨑克馬

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